梅雨の合間に工房周りでは里山ならではの草木が花を咲かせています。急峻な地形の泰阜村では平地がほとんどありません。工房の周りの敷地も山を削って作りました。削られた土地は痩せているので草木にとっては厳しい環境で、なかなか植生は回復しないのです。建物周りにはこの辺りの山から採ってきた木を植えました。
白い大きな十字の花はヤマボウシ。スズランのような小さな花が並んでいるのはネジキ。たくさんの小さな白い花が咲いているのがソヨゴです。たくさんの虫達が蜜を求めて乱舞しています。花の盛りは虫達にとっても待ちに待った季節。
それは人にとっても同じこと。信州は日本ミツバチの飼育が盛んなところです。この辺りでは山際の見晴らしの良い所には手作りの巣箱がよく置いてあります。山の蜜のもとになるのがこれらの花達。下伊那では榊の代わりに神事にも使われるソヨゴは初夏の代表的な蜜源でもあります。とってもおいしい蜂蜜です。
これらの木々も山の中では無事に暮らしていたのに、植え替えたことで災難に見舞われました。山の中から引っ張り出されて見通しの良い人里に植えられた途端に、たくさんの虫達に集中攻撃されて、どの木も枯れてしまうのではないかと思うほど殆どの葉を喰われてしまいました。森の中ではごくあるふれた木なのです。群れから離れた小魚が大きな魚に食べられてしまう様子を思い浮かべてしまいました。それでも何年か掛かって元気を取り戻し、やっと花を咲かせるようになりました。
里山の生き物たちはタフな様で繊細です。人の暮らしとも深く結びついていて、人が草を刈らなくなると絶えてなくなってしまう植物もあります。私が泰阜村に住みはじめた頃には道端にふつうに生えていた、ナデシコ、リンドウ、キキョウ、ヤマユリなども本当に数が減りました。
草を刈らないでいると、じきに薮となり、しまいには原野に帰っていってしまいます。自然の移り変わりです。里山で生きてきた生き物達にとっては人の手が入らなくなることですむ場所を失ってしまうものもいるのです。そして少し土地が掘り返されたりして荒れると、あっという間に帰化植物が入り込んできます。
日々移り変わっていく植物たちの様子を見ていると考えさせらることがたくさんあります。
(慶)