草來舎の焼き物ができるまで
草來舎の焼き物ができるまでの工程を紹介します。
●土づくり
工房草來舎では、胎土として信楽、伊賀、美濃、唐津などの土を吟味して使用しています。
土は半年から数年寝かせることによって粘りが増し、細工がきく作りやすい土になります。
寝かせた土を、制作前によく練って土の水分のムラを無くし、さらに菊練りをして、土の中の空気を抜きながら土のきめを整えます。
土の水分を抜く 土の陰干し
菊練り
●成形
・ロクロ成形 ・ひも作り ・タタラ作り ・叩き など
よく練った土の塊を、ロクロの回転を利用して挽き上げて形を作ります。
他にひも作りやタタラ作り、叩きなどの技法も使っています。
ロクロ挽き
タタラのサンマ皿 ひも作り
●削り
土が適度に乾いたら、カンナで高台を削り出し、器の厚みを整えます。
高台を作ることで焼き物は軽く丈夫に、手の掛かりもよくなり、持ちやすく洗いやすくもなります。器はできるだけ軽く仕上げて、手取りをよくすることを心がけています。
急須やマグカップなどは、削り上がったものにパーツを貼り付けて組み立てます。
削り上がった飯碗
急須の組み立て
●加飾
灰釉の表情を活かす、粉引や刷毛目、象嵌、刻文などの素朴な加飾をしています。
三島の印花
手製の陶印
化粧土で刷毛目
●乾燥
成形が終わった器は、歪まないようにゆっくりと乾燥させます。素焼きでの傷を防ぐために、さらに日干をして十分に乾燥させます。乾燥後に歪みが出ることもあるので、焼成前に最初の選品をして形や傷を確かめます。
プレートの日干し
●素焼き
ガス窯でゆっくりと水分を抜きながら10時間ほどを掛け、700度くらいまで温度を上げて素焼きをします。素焼きをすると器の土は水に溶けなくなり、釉掛けや窯詰めがしやすくなります。
●選品、水拭き
素焼き後、歪みや形を確かめながら選品をします。濡らしたスポンジで器を拭き上げ、埃や削りかすなどを取り除きます。同時にヒビなどの傷の有無を確かめます。
●下絵付け
呉須や鬼板や弁柄などで、釉掛け前に下絵を描きます。
十草の絵付け 車や電車、動物文の絵付け
●施釉
手作りの天然草木灰釉を、素焼きが終わった器に掛けます。
釉薬は、素地土の上をガラス質の被膜で覆って器を美しく丈夫にし、汚れを防ぎます。
素焼きの器を釉薬に浸す時間や動作で釉薬の厚みが変わって、色合いに変化が出ます。作品や釉薬ごとに、釉掛け前に釉薬の比重を使って、濃度を整えます。
酒器などで土味を楽しむ場合には、土見せといって高台まわりをあえて釉掛けせずに残すこともあります。
釉掛け
●草來舎の釉薬作り
草來舎では、全ての釉薬を手作りしています。地域の森から伐り出した木をストーブで燃やした灰、自前の田んぼの藁灰などを原料にして、土石と合わせて釉薬に仕立てています。
・灰作り
コナラやクヌギなどの広葉樹や、林檎の薪は工房の薪ストーブの薪に使って灰を取ります。
草木の灰はそれぞれに個性があり、灰の個性を活かすために、ひとつの種類の木の薪を燃し終わるまでは他の木を燃やさず、他の灰が混ざらないようにします。
林檎灰釉は、青白色から青紫色など、灰釉の中でも珍しい色を発色します。
林檎灰釉の鉢
田んぼの藁から作る藁灰釉は、乳白色から褐色を発色し、丈夫で飽きの来ない、日本人に昔から愛されてきた釉薬です。
泰阜村は急峻な地形のため、田んぼに大型機械が入らず、今も手間を掛けた稲の天日干しが行われています。
稲架掛けされた稲
脱穀の後の藁を分けて頂き、丁寧に燃やして藁灰を作り、釉薬にしています。
藁灰釉の鉢
また、窯焚きを終えた後の窯に残る赤松の灰は、ごくわずかで貴重です。この灰で仕立てた松灰釉は、ビードロ釉と呼ばれ、緑色や茶褐色に発色します。
松灰釉の鉢
・草木の灰の水簸
こうして取った草木の灰を釉薬にするために、まず灰の水簸をします。水簸とは、繰り返し多量の水で洗ってアクを抜くことです。
灰を篩に通し、篩の目を徐々に細かくしながら、ゴミや不純物、砂などを取り除きます。アク抜きには数か月以上も掛かることもあります。
アクが十分抜けていないと釉薬の濁りや縮れの原因となり、釉薬の融けも不安定になります。しかしこのアクが釉薬の表情にもなるので、水簸をどこで止めるか、塩梅が難しいのです。
藁灰
コナラの灰の水簸
水簸済みの灰を素焼きの鉢へ移して天日干し
干し上がった林檎の灰
・灰から釉薬へ
水簸が終わってアクが抜けた灰を十分に乾燥させ、長石や粘土などの土石と調合して釉薬を作ります。草木の灰にはそれぞれ豊かな個性があり、その灰の個性を活かして釉薬に仕立てています。
例えば同じ林檎の木でも、木によって個性が異なり、その個性を活かすために焼成試験を繰り返し、土石の調合を変えながら釉薬にしていきます。
灰と土石類のストック 釉薬を擂るポットミル
林檎灰釉各種
●薪作り
草來舎では、作品の焼成を主に薪窯で行っています。燃料は泰阜村の赤松。その赤松も自分たちで地域の山から間伐を兼ねて伐り出しています。
今、里山の森は人の手が入らずに荒れています。森の手入れで木を伐ることで森の中に日が差し込むようになり、草木の数が増え、それを食べる虫や動物などの種類も増えてきます。残された木々が枝を伸ばし大きくなり、キノコや山菜がまた採れるようになります。
赤松の伐倒
伐倒の瞬間
赤松の玉切り 山出しを待つ赤松の丸太
山から出した赤松の薪は登り窯や穴窯の燃料になり、広葉樹は冬の間の工房を温める薪ストーブの薪になります。
登り窯用の赤松の小割り薪
梨農家から頂いたストーブ薪 工房の頼もしい冬の相棒
薪窯やストーブの燃料として燃やされ残った灰が、様々な釉薬の原料となるのです。
草來舎の焼き物は森の恵みそのものです。
●窯詰め
薪窯では、この窯詰めが一番難しいと言われています。作品の詰め方で炎の動きが左右され、特に穴窯では炎が直線的に流れるので、より慎重に炎の流れを考えながら窯詰めをします。
また窯の中は、炎の流れによって焼成温度が高い場所と低い場所があります。釉薬も種類によって融ける温度が異なるため、作品ごとの釉薬の融点を考えながら、窯の最適な場所に窯詰めをします。
●窯焚き
焼き物の世界では「一焼き、二土、三細工」といって、焼成が何よりも大切です。ガス窯で20時間、穴窯で70時間、登り窯で100時間くらい掛けて焼き上げます。
素地の土を硬く焼締めて釉を融かし、美しく丈夫な器に焼き上げます。土が焼き物に変わる瞬間です。
薪窯では焼成が長時間にわたるため、多くの仲間たちの支えを得て、やっと窯を焚き上げることができます。
そして焼成以上の時間を掛けてゆっくりと冷まします。この冷ましの時に、器に様々な表情があらわれます。常温まで冷えてやっと窯出しとなります。
ガス窯の窯焚き
穴窯の窯焚き
登り窯の薪くべ
登り窯の窯の中 登り窯の煙突からの炎
●焼締・自然釉
釉薬を掛けずに焼く、薪窯ならではの焼成法が「焼締」や「自然釉」です。
赤松薪の炎と灰が、高温の器に降り注いで灰が土と融け合い、窯の中で自然の釉薬となります。
自然釉の様々な表情
●裏擦り、検品
窯出しされた器の高台や口辺を、砥石やヤスリで滑らかに仕上げます。口当たりを良くし、テーブルなどを傷つけないためです。あわせて焼成後に生じた歪みやひび割れなどを確かめます。薪窯は、傷や歪みなどの焼き損じも多く出てしまいますが、薪窯特有の深みのある力強い焼き上がりになります。
登り窯、窯出し後の裏擦り 高台裏の仕上げ
●さいごに
草來舎の焼き物は、私達の暮らす泰阜村の自然の恵みによって成り立っています。
地域の方々と森の手入れによる薪で窯を焚き、工房の暖を取っています。そうして得た灰と土石で釉薬を仕立て、焼き物を作っています。
日々の作陶を丁寧に続けていくことが、地域の自然や人々の営みを守ることに繋がればと思っています。
そして、 草來舎の器を使ってくださる方々が、器から信州の自然の息吹をも感じ、暮らしに彩りを添えてくだされば、こんなに嬉しいことはありません。